14歳の少年が胸を熱くした新星発見。あれから64年、いまだ色褪せず。

2023年12月号(230号)
特集|とことん、極め人。
板垣公一さん(山形市)

熱中できる才能?それとも好きの極限系?彼らを突き動かしているその情熱の源とは

子どもの頃の夢を覚えているだろうか。私事ながら小学校に上がる前は宇宙飛行士。次にパン屋さん、美容師やミュージシャンにも憧れた。どこでその夢が失速したかは思い出せないけれど、いまとなってはまったくかけ離れた仕事を生業にしている。しかし小さい頃に抱いた夢や、何かを好きという気持ちを長年育み、昇華させた人たちもいる。今回の特集で取材に応じてもらった人たちは、抱いた夢や好きを、想いの強さで極めた人たちだ。

夢中になれるものそれがあることへの憧れ

ひとつのことに集中して長い時間研究に打ち込み、鍛錬を積み重ねることができるのは、おそらく特別な才能だ。強い想いがあっても途中で挫折したり諦めたり、ときには飽きることもあるだろう。一方で目指す結果を求めて根気強く続ける、心底情熱を傾けられる夢や憧れ、目標を見つけた人は間違いなく強い。そしてかっこいい。ここ山形を舞台に“好き”と向き合っている“極め人”。その人からに発せられる言葉を誌面に載せて、皆さまに伝えることができたら――。

自身の天体観測の記録や成果を公開するウエブサイト「SUPERNOVA」を入口として解説する、超新星ハンターの板垣公一さん。

極め人の背中を追いかけられるかも

熱量の高い山形人を知ってもらうことで、親近感や地元への誇りを感じてもらえたら本望だ。大人になってこそ追い求める夢。これから紹介する“極め人”たちはそれを内に秘めるでなく、目的にして走り続けている。目指す境地のために飽くなき探求心と好奇心をもってそれと向き合っている。その背中はまるで私たちにエネルギーをチャージしてくれるかのようだ。極め人の情熱を感じていただくことで、心に積もった塵が少しでも取り払われるような、人生を正面から愉しみ、豊かにするきっかけを発信できたらと願う。

アマチュア天文家で世界有数の超新星ハンターである板垣公一さんが所有管理する、板垣観測所(山形市)には天体望遠鏡は3台設置されている。

14歳の少年が胸を熱くした新星発見。あれから64年、いまだ色褪せず。

きっかけは小学6年生の時。レンズに興味を覚えた板垣少年は小遣いを貯めて天体望遠鏡を購入。月を眺めて楽しんでいた。「そんな折、池谷薫さんが自作の天体望遠鏡で彗星を発見って報じられてね。スゴイ、俺もやってみたいって、それがきっかけ」と板垣さん。今年11月で満76歳を迎える世界有数の超新星ハンターだ。

板垣さんの本業は“いたがきのピーナッツ”でおなじみ『豆の板垣』の社長。気象状況に応じて山形市西蔵王にある私設の板垣観測所を訪れ、望遠鏡などの様々な機器に接続されたパソコンに向かう日々。「5年ほど前から岡山県岡山市、高知県香南市に観測所を所有しています。3拠点分の観測機器を操作して夜遊びしているわけです」と頰をほころばせる。

観測はモニターで行う。「つい夢中になって完徹することもある」と話す板垣さん。
年代物のスピーカーからはクラシック音楽が流れ、モニタリング室の雰囲気を円やかにしていた。
山形市、岡山市、香南市(高知県)の3拠点に、合わせて5台の望遠鏡と、約30台設置された観測用パソコンを設備。モニタリング室の入り口には、理論物理学者アルベルト・アインシュタインのポスターが掲げられていた。
日本天文学会が1936年から実施されている表彰のうち、世界で最初の天体発見者と認められた人に贈呈される「日本天文学会 天体発見賞」のメダル。

狙うはアンドロメダ銀河での超新星。瞬く光が地球に届く日まで。

「これまでで一番は2006年のSN2006jc。この発見は世界的にも高い評価を受けた」と話す。同一天体が2度爆発を起こすという初めての実例で、九州大学の山岡教授との共著扱いで英国の学術誌「ネイチャー」に掲載された。また今年5月に発見した超新星SN2023ixfも大物だ。うずまき銀河M101にあり、地球から約2100万光年という距離での発見は歴代2位の近さだという。

現在、米ラス・クンバレス天文台と米カリフォルニア大サンタバーバラ校の研究グループから、アマチュア天文家として初の観測協力者に認定されている板垣さん。星を見つけたら提携している大学の研究チームを介してNASAに報告。緊急度に合わせた衛星観測が行われる。「夢はM31天体(アンドロメダ銀河)で超新星を見つけること。もっとも早い光で230万年というこの近さで超新星を発見したい。それまではやめられないね」

そして、この取材をした後の10月29日(日)にも超新星※をひとつ発見したと板垣さんから公表の知らせを受けたgatta!編集部。驚くべきことに、2023年に日本人が発見した通算5つのうちじつに4つが板垣氏による発見である。すでに地球上では100年以上も観測されていない、アンドロメダ銀河での超新星発見の報道にいつか「ITAGAKI」の名が記されることを、私たちも心待ちにしていたい。

※符号:SN 2023wcr 出現銀河:NGC 4363 発見等級:16等級 発見日(世界時):2023年10月31.795日

板垣公一 超新星ウエブサイト
SUPERNOVA

国立天文台ウエブサイト
日本人が発見した超新星一覧

今年新設したドームもパソコンをつなぎモニタリングしている。ひと昔前と比較しても、望遠鏡の性能向上と小型化には目を見張るものがあるという。
モニタリング室に並ぶ観測用パソコン。国内に3箇所設けた観測所はすべて山形市の観測室から遠隔制御と監視ができるというから驚きだ。
「超新星発見の光はいつやってくるかわからないし、それが今この瞬間かもしれない。だから片時も気を抜けないんだよ」と語る板垣さん。

極め人「板垣公一」解析

きっかけは?

1963年1月に当時19歳だったアマチュア天文家、池谷薫による池谷彗星発見のニュースに接し憧れを抱く。レンズへの興味が深く天体観察をしていたこともあり、星探索の道へ。

実績

アマチュア天文家で世界有数の超新星ハンターとして、超新星発見数世界2位の記録を持つ。超新星の発見は通算173個、彗星2個、天の川銀河新星14個、天の川銀河外の新星48個。 ※2023年10月31日時点

「日本天文学会」から授与された天体発見賞碑のメダルが所狭しと重ねてある。

相棒

かつては星を撮影したフイルムを映し出して星の輝きを比較するために使っていた顕微鏡。いまは機材メンテに用いているそう。長年愛用している相棒だ。

安易に道具を廃棄せずに、違う使い道を考えて愛用し続けているところに板垣さんの人柄を垣間見ることができた。

gatta! 2023年12月号
特集|とことん、極め人。

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