2023年9月号(227号)
特集|さくら肉の話
馬肉生産販売ニイノ(白鷹町)
良質な馬肉を目指しおよそ20年前から本格化
白鷹町の豊かな自然環境と肥育者の情熱が育てた“甘い”馬刺し、ここにあり——。
白鷹町内を走る国道287号から東の山麓へ車で5分ほど走ると見えてくる「馬刺し」の大きな文字。民家が連なる集落に溶け込むように建つ馬肉の専門店『ニイノ』の社屋だ。敷地内には自家肥育のための厩舎のほか、惣菜調理の加工場を兼ねた販売所がある。「馬肉の取扱いは先代が本格的に始めました。だいたい20年くらい前だと思います」と話すのは2代目社長の沼沢さん。山形県では馬肉を専門に取り扱う精肉店は珍しい。置賜の一部地域では昔からチャーシューや煮込みなどにして食べる習慣がある馬肉だが、『ニイノ』の看板はなんといってもロースやモモ肉の〈馬刺し〉。自家肥育ならではの鮮度の高さ、赤身の質の良さが評判となり、地元はもちろん、近隣市町または近県からもわざわざ買い求めにくる人がいるという。
味付けなしで食べても甘くて美味しい馬刺し
「上質な馬刺しはコクと甘みがあります。クセがなく舌触りも滑らかです」という沼沢社長。
「当社では、さがり、はつ、たてがみ、レバー、すね、ばらといった部位も販売しているのですが、自家肥育された馬のみを流通させているので数に限りがあります。確実にお求めになりたい場合は、木曜日の午後、早めの来店がおすすめです」とのアドバイスも。また、白鷹町の産直『どりいむ』には、馬刺しのほかもつ煮込みやチャーシュー、馬肉入メンチカツなど『ニイノ』が手がける惣菜も置いているそう。馬肉の新たな美味しさに開眼する機会となりそうだ。
食肉用の隠語あれこれ
猪と牡丹
猪の肉が牡丹と呼ばれるのには、肉の濃い紅色から来ているという説がある。江戸時代には、当時主流だった「鯨肉」に対応して、猪や獣の肉を「山鯨」と呼ぶ隠語が一般的に使われていたそう。
鹿と紅葉
由来として「花札説」が有力。花札には1月から12月まで4枚ずつ季節ごとの花が描かれており、10月を示す花札の絵柄は紅葉。ともに鹿が描かれている。
鶏と柏
柏といえば端午の節句で味わう柏餅から特徴的な青葉を思い出す人も多いだろう。時期によってはその葉は茶色がかり、それが鶏肉の色味に似ていることから、隠語の由来となったという。
馬と桜
越冬し脂が乗った春、すなわち桜の季節の馬肉が美味しいからという説のほかに、牛鍋が人気を集めた文明開花の時代、馬が牛の“サクラ”として使われたからという説も。
さくら肉あれこれ豆知識 その2
♯4 馬肉にはどんな栄養がある?
馬肉は牛・豚肉と比べてタンパク質が2倍以上かつ牛肉と比べて脂肪分は約5分の1、カロリーは半分といったことから健康食材の優等生といえる。なかでも豊富に含まれる栄養素の「グリコーゲン」は体内で素早くエネルギー源となり、疲労回復を促進してくれる。
♯5 部位の違いは?
バラ肉は脂が多い、ヒレは柔らかいなど、牛や豚と肉質における特徴は一緒。馬ならではの部位である「たてがみ」は「コウネ」と呼ばれ、脂そのものの甘みがある。
♯6 生食が大丈夫な理由
馬が生食可能な理由として、その安全性の高さが挙げられる。牛や羊など複数の胃をもつ反芻動物は腸管出血性大腸菌を保菌していたり、家畜伝染病の「口蹄疫」は蹄が2つに分かれている偶蹄類で発生するが、馬は胃や蹄もひとつであるためそのリスクが低い。
出典:「馬肉新書 知られざる馬肉のすべて」社団法人日本馬肉協会監修 dressing「【日本料理の基礎知識】なぜ「鶏肉=かしわ」「猪肉=ぼたん」「馬肉=さくら」と呼ぶのか?」www.gnavi.co.jp 「馬肉新書 知られざる馬肉のすべて」社団法人日本馬肉協会監修
gatta! 2023年9月号
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